● 地下天気図®が扱う時間スケールについて(4/17/2017 注釈)
地下天気図®解析の一つの目的は、国が「30年で何パーセント」という、極めて長期的な予測しか示していない状況を少しでも改善する事で、「今後数ヶ月から1年」といった時間スケールでの予測とお考えください。 気象の天気図にも地上天気図®とか高層天気図のように、同じ日時で複数の天気図が存在します。見ている現象の時間・空間スケールが異なるもので、どちらも現状を表しているものです。地下天気図®も同様のものとお考え下さいませ。
● 津 波 地 震
津波地震とは、地震の規模(マグニチュード)の割に、揺れ(=震度)が小さ
く、結果として揺れの被害はほとんどなく、大きな津波を発生する地震です。津
波地震は海底で断層が比較的ゆっくりと、大きく動いた時に発生します。津波地
震の概念の確立に役立ったのは、1896年の明治三陸地震です。この地震では岩手 県での最大震度は2ないし3でしたが、岩手県気仙郡で38.2mという当時と して最大の津波遡上高を記録しました。1677年の延宝房総沖地震も津波地震と考えられています。
また今回(4/17/2017)の地下天気図®では北信越地方の異常や中国・四国地方の異常、岩手県を中心とした異常が見られませんが、それはそれぞれの地域で最適化して解析を行っているためで、北信越等の異常が消えたという事ではありません。
● 地 震 発 光
地震の揺れのときに発生する地震発光は、古代のギリシャ、ローマ、中国の時代から古今東西で報告されています。多くの研究者の調査から、自然現象としての地震発光の存在は間違いないであろうと考える研究者が多数います。その光は全天的に広がるもの、地表面において局所的にみられるものなどさまざまです。世界で初めての地震発光に関する科学的文献は、19世紀前後のヨーロッパでの報告をまとめたGalliによるものでしょう。以後も多くの報告がでましたが、どれも目撃例などの報告であり、存在を裏付ける地球電磁気的観測や光学的観測などはごく僅かな事例をのぞいてありません。そのため研究者誰もが現象の存在を認めるにはまだまだ時間がかかるでしょう。また、地震の前にも先行現象(前兆)として地震発光があるという報告や主張もありますが、地震との相関性・因果性を示すことは難しく、地震時の発光に比べて調査も僅かであるためいまのところよくわからないといってよいかと思います。
言うまでもなく日本では地震が多く発生します。そのため地震発光の研究は近代科学が日本に入ってからしばしばなされています。たとえば、夏目漱石「坊っちゃん」のモデルにもなっている物理学者・寺田寅彦は、武者金吉という人の地震発光に関する調査研究を支援しています。武者は、2000にもわたる多くの目撃例を収集しました。もちろん寺田も発光機構などについて考察をしています。地震学者も含め多くの科学者の存在を知ったのは、1965年から1967年に起こった長野県松代群発地震になります。現地で観測研究した地震学者らは、地震発光を目撃したとのことです。また、現地の歯科医でもあった栗林さんという方は常にカメラを携えて地震発光の写真の撮影を試み、見事発光現象らしきものを捉えています。この写真は多くの文献によって紹介されているので世界的にも知られたものです。
その後、近代都市において初めてといってもいい都市型直下地震となった1995年マグニチュード(M)7.3の兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)においては、多くの目撃例が報告され、複数の研究者の調査が文献にまとまっています。この目撃例を支持する科学的計測が報告されていないのが残念ですが、この地震を機会に地震発光に関する調査する気運がさらに高まったといえます。
近年、動画が記録できる携帯電話の普及とともに、全世界的に地震時の発光が一般市民によって録画されるようになってきました。動画投稿サイトの普及も重なり、一度大地震が起こるとこのような地震発光が世界中に瞬く間に報告されるようになってきています。事例として一番初めに起こったのは、2007年8月15日に発生したMw8.0ペルー・ピスコ地震です。この地震は、夜になったばかりのときに発生し、多くの人が街にでていました。また、首都リマと震央が約150 kmしかはなれていなかったため、都市に住む多くの人々が、大きな揺れを感じるだけでなく、揺れの最中に発光現象を目撃し、動画を記録しています。また防犯カメラでも発光現象が捉えられていました。数々の動画がYoutubeに投稿され世界中のメディアを通して地震発光ではないかと話題になりました。現地の地球電磁気の研究者による論文によれこれら自然現象であり、いわゆる地震発光であろうという報告をしています。しかしながら、アップロードされている数々のYoutube上動画を見てもわかるように、発光は、市内の複数箇所で見られ、同種の自然現象とは考えにくい報告は以後の地震でも多く報告されており、変電所などでのアーク放電とみるべきでしょう。しかしながら、このような防犯カメラの普及、誰でも動画がすぐとれるような環境が整ったのは近年であり、今後、どのような調査をしても自然現象としての地震発光と断定できるようになる日は近いかもしれません。(MK記 2020Dec)
● 地 震 雲
地震の前に発生するのではと一般社会にも広く認知されている「地震雲」。これほどよく市民にも浸透している科学的ともいえる現象は少ないでしょう。同じように一般でもよく知られ地震の前兆として話題にあがるのは動物行動異常でしょうか。いずれも、日常の生活で観察できるような現象であるため、専門家の間では「宏観(こうかん)現象」として分類されているものです。同じジャンルとして分類されていますが、科学的な研究成果は大きく異なり、前者はほぼ学術論文と呼べるものがなくいわゆる疑似科学・似非科学といったような評価がなされています。一方、後者は多くはありませんが科学的論文があります。その科学論文も第3者によって追試ができるようなものであり科学的手順がきちんとふまれたものであるため、科学者における評価は異なります。しかし、前者は市民科学としても絶大な人気があり、インターネット上においても多数地震前兆としての地震雲の報告がなされています。なぜこのような違いがあるのでしょうか。これらの理由を説明するような社会科学的研究はほぼないと思われますが、推察するには人間においても観察しやすい雲を観測対象としているため、身近な科学として対象になりやすいのでしょう。類似したような現象としては、血液型性格判断などがあるかと思われます。補足ながら、血液型性格判断は複数の手法による統計学的調査で存在を否定されています。
いずれにしろ地震雲は客観的・定量的な判断が難しい人の目を通さずとも科学計測が調査できるようなものです。それらが地震前兆を熱心に研究する専門家さえ地震雲の存在の評価すら行わないのは簡単な思考実験でも地震雲の研究に取り掛かろうとする根拠がないからかもしれません。まだ存在を否定するような成果すらないことから、熱心な地震雲の存在を主張する市民科学者からの意見は、科学的に存在しないという成果もなされていないのだから存在しないとはいえないのではという意見はあります。もしこのような主張をするならば、まずは科学計測と統計的な評価を行うべきであり、それも常に他の専門家からの批判に耐えられるものを行っていく必要があります。なにか震央が地球電磁気的または測地学に変化しそれらが雲を作る要因というのであれば、他の科学計測で雲を発生させる要因を突き止めるところまで試みる必要があります。以上のことが地震雲については前兆現象を熱心に研究する専門家からもなされていないという観点からも、実験・調査を開始する前の実験計画・思考実験の段階で地震雲の存在に関する根拠は薄いと考えていると想像されます。なお地震雲は日本と中国でよく話題に上がる先行現象であり地域性のあるものです。(MK記 2020Dec) ● ETASモデル(地震活動度解析の拡大連動型余震モデル) 大きな地震の直後から地震が連鎖して発生しますが、古来このような地震群を余震と呼び、きっかけになった地震を本震と呼びます。一つの地震が他の地震の引き金となるのです。大きな地震は多くの地震の引き金となり、小さい地震でもそれなりの確率で他の地震の引き金になります。
極端に、今の地震は過去に起きた全ての地震によって誘発されたと考えることができるとします。もちろん最近の大きな地震ほど大きな引き金となり、昔の小さな地震ほど小さな引き金になると考えます。これは、考えている地域がそれほど大きくない場合を想定していますが、もし地域が大きければ、最近近くで起きた大きな地震ほど大きな引き金と考え、昔に遠くで起きた小さな地震ほど小さな引き金と考えます。そう考えると、地震は普段から数多く起きていますが、それらの発生の仕方は全く無秩序ではなく、法則性があることになります。全ての過去の地震の影響で今の地震が起きたと考えられます。
こう考えると、様々な地震活動をうまく説明できることがわかってきました。この説明のために使われる具体的なモデルはETASと呼ばれています。ETASは、いかなる地震も多かれ少なかれ付随する地震活動を持ち、今の地震は過去の地震に付随して発生した地震の一つという考えに基づいたモデルです。ETASは統計数理研究所の尾形良彦先生が提案したもので、地震学では数少ない日本発のモデルの一つです。
ETASモデルは、Epidemic-Type Aftershock Sequenceの略で(地震活動度解析の)”拡大連動型余震モデル”とも言えます。
ETASを使う利点は、地震活動の各地域の特徴や相場を再現できることで、これを「ものさし」として使い、地震活動の異常変化(相対的な静穏化など相場の活動からの乖離)を検出できることです。一般に、異常がみられてもその後必ずしも大地震が起こるとは限りませんが、その起きる確率が通常より高くなっていることも計算できます。
また、過去の地震活動にETASを当てはめ、過去の地震の起きかたも将来の起きかたと同じと考えて、将来の地震活動を予測することにも使えます。ETASは地震本部の余震活動の評価手法に取り入れられているほか、米カリフォルニア州の次世代の短期的予報モデルに採用されおり、地震活動の標準モデルとして国際的に受け入れられています。(KN記 2020Dec)
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